第6節で、チューリングは、反対の意見を一つずつ見ていく前に、自分自身の信念を述べる。「約五十年後」の予想である。「平均的な質問者が、五分間の質問ののちに正しい識別をする確率が70パーセントを超えないようになると信じる」。

予想の三つの要点

予想の要点は、三つある。時期は、約五十年後(1950年から数えて、2000年ごろ)。条件は、五分間の質問。結果は、質問者が正しく識別する確率が、70パーセントを超えない、である。チューリングは、このとき機械は、約10の9乗(約10億)ビットの記憶容量をもつ、とも述べている。

チューリングは、もう一つの信念も述べる。もとの問い「機械は考えることができるか」は、「議論に値しないほど無意味だと、私は信じる」。そして、「世紀の終わりには、言葉の用法と一般の教養ある人びとの意見が大きく変わり、機械が考えると、反論を予期せずに言えるようになる」と信じる、という。

予想を、実験の数字と並べる

2025年の実験(前の記事で見たもの。GPT-4.5とLLaMaは、文章を作るAIの名前)の数字と、この予想を並べてみよう。二人のうち一人を選ぶ形式なら、「正しい識別の確率が70%を超えない」は、言いかえれば、機械が「人間と判定される」割合が30%以上、ということである。以下は、本稿の計算である。

システム(条件)人間と判定された割合正しく識別された割合(100から引いた値)
GPT-4.5(人格の指示あり)73%27%
GPT-4.5(指示なし)36%64%
LLaMa-3.1-405B(指示あり)56%44%
LLaMa-3.1-405B(指示なし)38%62%
GPT-4o21%79%
ELIZA23%77%

GPT-4.5とLLaMaは、指示の有無にかかわらず、チューリングの予想の数字(正しい識別が70%以下)を、数字の上では満たしている。GPT-4oとELIZAは、満たしていない。時期は、2000年ごろという予想から、約四半世紀あとの2025年の実験になる。

ただし、この一枚の表を、予想が当たったかどうかの判定に使うことはできない。実験の条件(三者形式の5分、特定の質問者の集団)と、論文が思い描いた条件が、どこまで同じなのかは、この数字だけでは決められないからである。また、のちのPNAS版で加わった15分のゲームの追試では、GPT-5が59%、LLaMa-3.1が56%、ELIZAが17%だったという(人格を演じる指示つきの条件。出典は前の記事を参照)。ゲームの長さや質問者の集団しだいで、数字は変わりうる。

ここまでが、論文の予想と、実験の数字の並べ方である。次の記事では、同じ第6節で、チューリングが答えている反論の一つ、「機械は、命じられたことしかできない」という反論を読む。

出典