解説本

ウィトゲンシュタイン『論理哲学論考』を読む

問いでたどる解説本

ウィトゲンシュタインの『論理哲学論考』全七部・全526命題を、原典の命題番号の順に、一つずつ問いを立てながら読み進める解説本です。全七部47節。世界は成り立っていることのすべてである、という冒頭の命題から、事実・対象・像・思考・命題をめぐる議論を経て、論理学と自然科学、倫理と神秘、そして「語りえぬものについては、沈黙しなければならない」という最後の一文まで、ウィトゲンシュタインの思考の道筋をたどります。

本文中の引用は、すべて古典書房の翻訳HTML『論理哲学論考』の訳文によります。引用のあとの記号は、その訳文が対応する原典の命題番号です。

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目次

はじめに

ウィトゲンシュタインの『論理哲学論考』は、内容は大部の体系書と比べられるにもかかわらず、文庫本なら百ページにも満たない本です。一つの命題が別の命題の直接の注釈になっていて、順番を動かすことすら許されない。濃密に構造化された議論を、この分量に圧縮しているという点が異例です。ただし、それゆえと言ってよいのか、読みにくい本でもあります。最後まで読み通した人よりも、書名だけを知っている人のほうがはるかに多いと言われる一冊です。

読みにくさの理由の一つは、独特の番号づけにあります。この本の命題には、1、1.1、1.11、2、2.01というように、小数点を挟んだ番号が振られています。著者自身が最初の命題に付けた注で説明しているところによれば、この小数は、それぞれの命題の論理的な重み、つまり叙述のなかでその命題に置かれている力点を示しています。命題nに続く命題n.1、n.2は、命題nへの注釈であり、命題n.m1、n.m2は、命題n.mへの注釈である、という具合に、番号そのものが、どの命題がどの命題を支えているかを表す仕組みになっています。目次を一目見ただけで身構えてしまう読者が多いのも、無理はありません。

それでも、全体を貫く問いは一つです。何を語ることができ、何は語ることができず、ただ示されるだけなのか。世界とは何かという問いから始まったこの本は、事実、対象、像、思考、命題と歩みを進め、命題の総体としての言語がどこまで届き、どこで届かなくなるかを、一歩ずつ確かめていきます。そして、論理・数学・自然科学について語れることを見きわめたのち、倫理・美・神秘といった、語ろうとすると言葉が空転してしまう領域に至り、最後は、語ることのできないことについては沈黙しなければならない、という一文で締めくくられます。

この本は、その道筋を、原典の命題番号の順に、命題1から命題7まで、七つの部に分けてたどるための案内です。部の区切りは、原典の最上位の命題(1から7までの各命題)そのものです。各部の中は、そこで立ち上がる問いを見出しにした節に分かれています。対象・像・真理関数・独我論・神秘といった、この本のなかでもとりわけ多くの読者を引きつけてきた箇所には、そのぶん多くの節を充てています。細部の記号操作や、途中で退けられる立場の一つひとつをすべて追うことはしません。省いたところは、そうと分かるように書き、翻訳HTMLに譲ります。

本文中の引用は、すべて翻訳HTMLの訳文によります。引用のあとの(6.372)などの記号は、その訳文が対応する原典の命題番号で、翻訳HTMLの各命題に付された番号とそのまま一致しています。気になった箇所は、ぜひ翻訳HTMLでその命題の前後を読んでみてください。

この本は、原典を読む代わりではなく、原典を読むための地図として書かれています。

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