誰かと離れがたく思うとき、自分が何を求めているのか、自分でも言えないことがあります。『饗宴』で、しゃっくりの止まった喜劇詩人アリストパネスは、この不思議に、神話の形で答えます。人はなぜ、特定の一人を探し求めるのか。彼の答えは、人間がもとは一つだった、というものです。
丸い人間と、二つに切られた姿
アリストパネスは、まず、「人間は愛の力をまったく感じ取っていないように私には思われる」と言います。愛は、神々のうち最も人間を愛する神であり、人間の助け手です。その力を説き明かすために、まず、人間の本性と、その受けた災いを学ばなければならない、というのです。昔の私たちの本性は、いまのものと同じではなかったからです。
昔の人間は、いまの姿とは違っていました。種族は三つあり、一人一人の姿は全体が丸く、背中と脇腹が円を成し、手は四本、脚も同じ数、顔は丸い首の上に二つありました。力は恐ろしく強く、気概も大きく、天に登って神々に襲いかかろうと企てます。ゼウスとほかの神々は、途方に暮れます。雷で撃って種族を消せば、人間から神々に捧げられる栄誉と社も消えてしまうからです。そこでゼウスは思いつきます。「人間を存続させつつ、弱くして放縦をやめさせる方策だ」。一人ずつ二つに切る、というのです。ゼウスは、切った者一人ごとにアポロンに命じ、顔を切り口のほうへ向けなおさせました。人間が自分の切られた姿を見て、よりつつしむようにするためです。ほかの部分も癒させ、腹と臍のまわりの皺だけは、昔の災いの記念として残されたと語られます。
自分の半分を探す
本性が二つに切られると、それぞれが自分の半分を恋い慕い、いっしょになろうとしました。腕をまわして絡み合い、一つに生えつごうと望みながら、飢えと無為のために死んでいきます。「互いを離れては何もしようとしなかったからである」。ゼウスは憐れんで、別の方策を考え出します。抱き合うとき、男が女に出会えば、子が生まれて種族が続き、男が男に出会えば、少なくとも交わりに満ち足りて、休み、仕事に向かうようになる、というものです。
アリストパネスは、ここから愛について語ります。愛は、人間の互いのなかに植えつけられた、古い本性を集め合わせるものであり、二つから一つをつくり、人間の本性を癒そうと試みるものだ、と言います。そして続けます。「私たち一人一人は、ヒラメのように二つに切られた、一つから二つになった人間の割り符である」。割り符とは、もとは一つのものを二つに割り、あとで合わせて確かめた片方のことです。だから各人は、いつも自分の割り符を探している、と彼は言います。切られた半身が誰を探すかは、もとの種族によって違うと語られますが、ここでは、どの場合にも共通する点に絞ります。
何を望んでいるのか、言えない二人
自分の半身に出会った人は、驚くほどの友愛と親しさと愛に打たれ、片時も互いに離れようとしません。それでも、「彼らは互いから何を得たいのかさえ、言うことができない」とアリストパネスは言います。ただ共にいることを、これほど熱心に喜ぶ理由が、愛の交わりのためだとは思えない、というのです。それぞれの魂は、何か別のものを望んでおり、「望むものを予感し、謎めいて言う」だけです。
そこで彼は、一つの場面を仮定します。同じ床に横たわる二人のところへ、ヘパイストスが道具を持って来て、君たちは互いから何を得たいのかと尋ねる。答えに窮する二人に、神はさらに問います。できるだけ同じ所にいて、夜も昼も互いに離れないことを望むのか。そうなら、「溶かして一つに溶接し」、二人でありながら一人となり、生きているあいだは、一人であるかのように二人で生き、死んだ後も、ハデスで二人の代わりに一人として、共に死者となるようにしてやろう、と。アリストパネスは、この申し出を聞いて、だれ一人拒むことはなく、ほかのものを望んでいると分かる者もいないことを、私たちは知っている、と言います。むしろ、愛される者と一つになり溶け合って、二人から一人になることこそ、昔から望んでいたことだと聞いた思いがするだろう、というのです。
その理由は、昔の私たちが全体だったからです。愛とは、その全体を求める欲求と追求に与えられた名だ、と彼は結びます。ここは筆者の読みですが、アリストパネスの愛は、失われた全体への思慕として語られているようです。彼は、この話が男についても女についても、すべての人について言うものだと断り、一人一人が自分の愛される少年に出会って昔の本性に戻るなら、私たちの種族は幸福になるだろう、と述べます。話はそのあと、その原因である神、つまりエロスを称えるのが正しい、というところへ進みます。
アリストパネスが話を終えると、残っているのはアガトンとソクラテスです。アガトンの賛辞のあと、ソクラテスは、そのアガトンに短い問いを重ねはじめます。エロスは、何かに対する愛なのか。次の記事では、この問答を辿ります。