「別の伝承」群の最後、五つ目の断片は、これまでで最も長く、内容も豊かです。ボルシッパにあるナブーの大神殿エジダをたたえて唱えられるはずだった呪文の、手の込んだ序にあたります。世界がまだ何もなかったころから語り起こし、マルドゥクによる人類創造の、本編とは違うもう一つの姿を伝えます。

まだ何もなかったころ

「聖なる家、神々の家は、聖なる場所に、まだ造られていなかった、葦は一本も芽生えず、木は一本も創られていなかった。煉瓦は一つも積まれず、建物は一つも立てられていなかった、家は一軒も建てられず、町は一つも築かれていなかった、町は一つも造られず、いかなる生き物も創られていなかった。」(別の伝承V 表 1〜5行より)。同じ調子で、ニップルも、エレクも、エリドゥも、まだ存在しなかったと続きます。すべての陸地が、ただ海であった時代の話です。

海が動き、町々が生まれる

「そのとき、海のなかに動きがあった」(同11行より)。そこからエリドゥが造られ、エサギルが築かれ、バビロンの町が完成し、神々アヌンナキが創られます。聖なる町は、神々の心の望みである住まいとして、至高のものと宣べられます。

葦のそばの塵から、人類が形づくられる

「マルドゥクは水の面に葦を横たえた、彼は塵を形づくり、それを葦のそばに注いだ。彼が神々を、彼らの心の望みである住処に住まわせるために、彼は人類を形づくった。女神アルルは、彼とともに、人類の種を創った。」(同17〜21行より)

血ではなく、塵から――もう一つの人間創造

第六書板を扱った記事では、マルドゥクが自分自身の血と骨から人間を創る計画を語る場面を見ました。ところがこの異本では、方法がまったく違います。水面に横たえた葦のそばに塵を注ぎ、そこから人類を形づくるのです。底本の序論は、この場面を、『創世記』2章7節――人が地の塵から形づくられたという、もう一つの創造の記述――と比べています。血が用いられる伝承と、塵が用いられる伝承。同じ本のなかに、人間の起源をめぐる二つの異なる語り方が、並んで残されていることになります。

もう一柱、女神アルルも登場します。底本によれば、この女神は、別の物語――ギルガメシュ叙事詩――でも、粘土から英雄を創る役を担っています。人類創造の場面に、マルドゥク一柱ではなく、もう一柱の神の手が加わっている点も、本編とは異なる特徴です。

神殿をたたえる呪文として

この創造の物語は、単独で語られているのではありません。位置づけとして、ナブーの神殿エジダをたたえる呪文の「導入部」にあたります。世界と人類の起源を語ったあと、書板の裏面では、エアの娘ニン・アハ・クドゥが神殿を清め、豊かさが満ち、天のように輝くようにという祈願で締めくくられます。獣や町の創造が、別の断片ではさりげなく触れられるだけだったように、創造の物語そのものが、神殿への賛美を導くための「前置き」として使われる――これが、「別の伝承」に共通する型の一つのようです。

これで、「別の伝承」I〜Vをすべて読み終えました。同じ竜退治や人間創造という主題が、本編とは違う言葉で、繰り返し語り直されてきたことになります。