火・水・空気・土。この四つが、世界を作る基本の材料だという考え方は、古代ギリシアではごく一般的なものでした。
しかし、プラトンはここでもう一歩踏み込みます。「では、その火や水は、いったいどんな形をしているのか」と。答えとして彼が持ち出したのは、幾何学の正多面体でした。今日は、この少し風変わりな物質理論を見てみます。
すべての物は、三角形からできている
プラトンの理屈は、こう進みます。まず、あらゆる立体図形は、三角形に分解できる。だとすれば、火や水を形づくっている、目に見えないほど小さな粒も、突き詰めれば三角形の組み合わせでできているはずだ、と。
プラトンが選んだのは、二種類の直角三角形です。一つは、直角二等辺三角形(正方形を対角線で半分にした形)。もう一つは、正三角形を半分にしてできる、角度の異なる直角三角形です。この二種類の三角形を、決まった枚数だけ組み合わせることで、四元素それぞれの「粒」の形が作られます。
四元素と、四つの正多面体
組み合わせの結果、プラトンは次のような対応を導き出します。
火は、もっとも単純な正多面体である正四面体(三角形4枚)。空気は、正八面体(三角形8枚)。水は、正二十面体(三角形20枚)。そして土だけは仲間はずれで、正方形を面に持つ正六面体、つまり立方体です。
この対応は、単なる思いつきではありません。プラトンは、それぞれの元素の性質を、図形の形から説明しようとします。正四面体は、四つの立体の中でもっとも角がとがっていて、面の数が少なく、もっとも動きやすい形です。火が鋭く、物を焼き切り、あらゆる方向に素早く広がっていく性質は、この鋭さと軽やかさによって説明される、というわけです。反対に立方体は、平らな正方形の面を持ち、どっしりと安定して静止しやすい形です。土が動きにくく、どっしりとして崩れにくい性質は、まさにこの安定した形に由来する、とプラトンは考えました。
水は空気になれるが、土にはなれない
この理論のおもしろいところは、元素どうしの変化まで説明してしまう点です。
火・空気・水の三つは、実はすべて同じ種類の三角形(正三角形を半分にしたもの)から作られています。三角形の枚数が違うだけです。ということは、粒がいったんバラバラに分解され、別の枚数で組み直されれば、火が空気になったり、空気が水になったりすることが、理屈のうえで可能になります。実際プラトンは、水が熱で分解されて空気になり、逆に空気が冷えて水になる、といった変化を、この三角形の組み替えとして説明しています。
ところが土だけは、違う種類の三角形(直角二等辺三角形)からできているため、他の三つとは組み合わせようがありません。だからこそ、土は火にも水にも姿を変えることができない、独立した存在だとされます。岩や金属が、水のように蒸発したり燃え尽きたりせず、頑固に形を保ち続けるように見えるのは、この違いのためだ、というのがプラトンの説明です。
余った五番目の図形
ところで、正多面体は実は五種類しかありません(後に「プラトンの立体」と呼ばれるようになる図形群です)。四元素に四つを割り当てると、正十二面体が一つ余ります。
この五番目の図形について、プラトンは多くを語りません。ただ、宇宙全体の姿を描き出すために、神がこの形を用いて星座を散りばめた、という趣旨のことを述べるにとどめています。四元素にきちんと理屈をつけた几帳面さに比べると、ここだけやや扱いが軽く、後世の解釈者たちを悩ませてきた箇所でもあります。
2000年後、この図形は宇宙の設計図として復活する
この幾何学的な物質理論そのものは、原子や分子の実際の構造とは一致せず、近代科学の中で乗り越えられていきました。
ところが不思議なことに、この五つの正多面体という発想そのものは、思わぬ形で復活します。17世紀の天文学者ヨハネス・ケプラーは、著書『宇宙の神秘』の中で、当時知られていた六つの惑星の軌道の間隔を、五つの正多面体を入れ子状に組み込むことで説明しようと試みました。惑星の軌道は六つ、その間の「隙間」は五つ。ちょうどプラトンの立体の数と一致する、という着想です。
この試みは、後にケプラー自身が導き出す、より精密な惑星運動の法則によって乗り越えられていきます。しかし、宇宙の構造を美しい幾何学的秩序として捉えようとする姿勢そのものは、プラトンからケプラーへと、2000年の時を超えて受け継がれていたのです。