夜空を見上げると、星々はゆっくりと円を描きながら空を巡っていきます。
古代の人々にとって、これは単なる天文現象ではありませんでした。プラトンは、この「回転」という運動そのものに、驚くべき意味を与えます。宇宙には魂があり、その魂こそが回転している、というのです。今日は、この一見奇妙な発想を追ってみます。
宇宙には、体より先に魂があった
『ティマイオス』において、プラトンはまず宇宙に「魂」を与えます。しかも、体(物質としての宇宙)よりも先に、魂の方を作ったとされます。年長者が若者を治めるように、魂が先に存在し、後から作られる体を統べるべきだ、という考え方です。
この魂の材料として、プラトンは三つのものを持ち出します。「同」(変化しない、分割できない存在の性質)、「他」(変化し、分割できる、物体に関わる性質)、そしてこの両者を混ぜ合わせる土台となる「存在」です。製作者(デーミウールゴス)は、この三つを特別な配合で混ぜ合わせ、宇宙の魂を作り上げます。
数の比率でできた、一本の帯
混ぜ合わされた魂の素材は、次に、決まった数の比率にしたがって切り分けられます。1、2、3、4、9、8、27。この数列は、2倍・3倍を交互に重ねていったもので、ピュタゴラス派が重視した音楽の調和比(オクターブや五度、四度といった音程を生み出す比率)と深く関わっています。宇宙の魂は、いわば音楽的に調律された、一本の帯として作られるのです。
この帯は、次に長さ方向に切り分けられ、二つの輪へと組み立てられます。そして、この二つの輪は、ちょうどアルファベットの「X」のような形に、斜めに交差させられます。
「同」の輪と「他」の輪
この二つの輪には、それぞれ役割があります。
外側の輪は「同」の輪と呼ばれ、分割されることなく、一つのまとまりとして、いつも同じ向きに回転し続けます。これは、天球上で恒星が描く、変わることのない日周運動に対応します。
内側の輪は「他」の輪と呼ばれ、こちらはさらに七つに分割され、それぞれが異なる速さで、外側とは逆向きに回転します。これが、太陽・月・惑星がそれぞれ独自の速さで動いているように見える現象に対応します。つまりプラトンは、恒星の規則正しい動きと、惑星の複雑な動きの両方を、一つの魂の内部にある二種類の回転として、統一的に説明しようとしているのです。
なぜ「回転」が特別視されるのか
ここで一つの疑問が浮かびます。なぜプラトンは、直線運動ではなく、円運動をこれほど重視するのでしょうか。
プラトンの答えは、円運動が「自分自身のもとへ戻ってくる」運動だから、というものです。始まりも終わりもなく、外に逸れることなく、同じ場所を巡り続ける。これは、他の何にも依存せず、自分自身のうちで完結している、もっとも完全な運動だとプラトンは考えました。そして、まさにこの性質のゆえに、円運動は「知性」の働きにもっともふさわしい運動だとされます。ものごとを筋道立てて考える、あの思考の運動そのものが、円運動と同じ性質を持っている、というわけです。
私たちの頭の中でも、同じことが起きている
この発想は、人間の魂にもそのまま当てはめられます。
プラトンによれば、人間の理性的な魂は、頭という球形の器官に宿り、宇宙の魂と同じように、絶えず回転し続けています。正しく学び、正しく考えることができている状態とは、この頭の中の回転が、乱されることなく、宇宙本来の回転と調和している状態です。逆に、幼いころの未熟な魂は、体液の乱れなどによってこの回転がかき乱され、でたらめな方向を向いてしまっています。教育とは、この乱れた回転を、宇宙の秩序ある回転へと、少しずつ引き戻していく作業だ、とプラトンは考えました。
つまり、夜空で星々が描く円運動と、私たちが何かを正しく理解しようとするときの思考の働きは、根っこのところで同じ運動だ、というのがプラトンの主張なのです。
円が「完全」であり続けた2000年
この「円運動こそが完全である」という発想は、その後の天文学に、驚くほど長く影響を与え続けました。
プラトンからおよそ2000年後、コペルニクスが地動説を唱えたときも、彼はなお惑星の軌道を円だと考えていました。ガリレオもまた同様です。惑星の軌道が実は楕円であることを示したのは、17世紀のケプラーでした。長らく「完全な運動」とされてきた円という形を手放すのに、これほど長い時間がかかったこと自体が、プラトンのこの発想がいかに深く西洋の宇宙観に根を張っていたかを物語っています。